長時間の不自由からくる疲労と、突然の再会。混乱する頭がこれでもかと美鶴を責めたてる。
私の態度が、里奈を追い詰めたのだと?
そんな、だって、そもそも里奈が本当の事を話してくれていれば。
そうだ。里奈が隠さないでいてくれれば、事はここまで捻くれなかったはずだ。
澤村と付き合いながら、どのような思いで自分に隠し事をしていたのだろうか? 自分の事を誰よりも大切な人だと言いながら、隠し事に罪悪は感じなかったのだろうか?
「私さ、澤村くんの事、好きみたいなんだよね」
美鶴の言葉を聞いた時、里奈はどう思ったのだろうか?
混濁する意識。だがそれは、激しい物音にぶち破られる。
ガンッとものすごい音。喚き声。
「待ってよっ!」
半泣きの里奈にも構わず、澤村優輝はズカズカと部屋を横切る。そうして無言のまま美鶴の髪の毛を鷲掴みにした。
「いたっ」
うめき声などまったく無視で、そのままズルズルと床を引きずる。抵抗もできず、足を絡ませ従うしかない。
やがて優輝は美鶴の後頭部に手を当て、思いっきり押した。
―――――っ!
目の前には緑色の液体。
突っ込まれるっ!
反射的に首の力を入れる。だが耐えられるワケはない。
無情にも突き込まれる。
しばらくして引き上げられる。
「やめてよっ」
その泣き声に、優輝は口の端を吊り上げた。
「俺の前でコイツの名前を出した、お前が悪い」
状況はわからない。具体的に何があったのか。
どうやら里奈が彼の怒りを買い、それによって澤村優輝が再び暴走したようだ。
俺の前でコイツの名前を―――
口を滑らせたのか、それとも故意にか。どちらにしろ、美鶴の名前がスイッチになったのは間違いない。
薄暗い部屋の中で、異様なほどに明るい水槽。顔を押し付けられた時には、その生臭さに吐き気がした。
絶対に水は吸い込むまい。
だがその決意は数秒で崩れた。
顔を突っ込まれ、息苦しさに視界が真っ白になる。鼻に走るツンとした痛み。かろうじて生きているコトを教えてくれる。
鷲掴みにした髪の毛を引っ張られ、乱暴に頭部を水槽に投げつけられる。
痛みで目の前に星が飛び、なのに意識を取り戻してしまう。
「苦しい?」
水槽に突っ込んでは、ものすごい力で引っ張りあげる。
嬉しそうに笑いながら、楽しそうに繰り返す。
「お前、やっぱり邪魔」
やっぱり、里奈の中から完璧に消さなければ。
再び水槽へ突っ込む。
背後で泣き叫ぶだけの里奈。
「やめてよっ やめてよっ なんでそんな事するのよぉぉ」
朦朧とする頭にガンガンと響く。
そうだ。あの泣き声は里奈の声。忘れたことなど、一度もなかった。
美鶴が暴れて、あるいは乱暴に頭を押し込まれて、溢れ飛び散った水が足元を濡らす。
滑ってヨロけるのを、優輝は足で蹴り飛ばす。
「やめてってばぁぁぁぁっ!」
叫びながら、だが美鶴に駆け寄って助けようとはしない。
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